如何にして私は最初の万年筆を買ったか
私が最初に万年筆を買ったのは2019年の10月で、日記代わりのノートに初めて「万年筆」という単語が出てくるのはそれから遡って4ヶ月前の6月3日である。
エナージェルフィログラフィ、それ自身より高級なノートカバーや手帳のカバーに合わせるとどうしても存在として劣るような気がする。細身だから悪いのかよくわからんが、万年筆売り場、伊東屋の3階に売られているような、1本1万円ぐらいするペンがきっと(ルガードには)似合うのだろうと思い、そう思ってしまったもう破滅への始まりだと思うが、幸いにも万年筆は面倒くさくて使いたくない思想があるので破滅はまだないと思ったが、ジュースアップやフリクションかサラサ、エナージェルが入る、万年筆と同じ姿のペンが発見されたら破滅だと思う。
と思って探してみたら、「ヨーロッパ標準サイズ」の芯を使うローラーボールとジュースアップとは互換性があるらしく、アウロラとかカランダッシュあたりが該当するらしい。さすがにそれを買ったら破滅である。ルガードみたいに一目惚れしないと買わない。
この2日前、仕事で使うノートをA5ノート2冊持ちからアシュフォードのルガード*1というA5サイズのシステム手帳に切り替えていて、今使っているボールペンだと見劣りする、というかなり邪な理由で万年筆を意識しだしたようである。
とにかく私が万年筆を買った理由は「システム手帳に合うペンが欲しい」という理由だったということがもうここから読み取れる。
ただ、熱狂的ジュースアップ*2信者の私は万年筆を購入するのではなく、どちらかというとジュースアップの入るローラーボールを買い、芯をジュースアップに替えることでルガードに似合うペンを作り出していこうと考えていたようである。普段書くものを変える、ということを相当に恐れているのである。
万年筆のコーナーを覗いたけれど、あまり心惹かれるペンはなかった。Juice upが入るかどうかもわからないのに、試してみるペンではない。じゃあ無理にペンを探すこともないし、こっち(日記代わりに使っていたMDノート)にはITOYAのイレーサブルペン*3を使えばいいし、トラベラーズノートにはサクラクラフトラボの001を使っていればいい。(2019年8月18日)
ただ、9月頃になると次第に万年筆に気持ちが傾いていく。
銀座。万年筆の売り場で初めて5ミリぐらい万年筆を買う気でいた。
この3点はローラーボールにするとジュースアップが入る(多分)ので、考える。
以上2つは、ローラーボール互換なし。買うならじゃあ万年筆じゃないかと思ったが、万年筆の本などを買って読んでみるにやっぱり難しそうな気がする。そして結局旅先ではボールペンを使うことになりそうである。私はそんなにペンを丁寧に取り扱う人ではないし、なにより、(インク)ボトルを置いておく場所がない。(2019年9月21日)
この万年筆欲、実用面よりは消費欲、所有欲を満たすものなのかもしれない。(9月25日)
でもなんとなく「買わない理由」を探し続けている。万年筆は高いのである。9月末、金ペンをノートに走らせて、やっぱり違うのではないか、という結論に一度至っている。
丸善*5に行った。万年筆を勝手に試筆していいので勝手に試筆してきたが、書き心地はどのペンも違う気がした。金のニブだとペンを滑らす時に何とも言えない気持ち悪さがあって、やっぱり私は万年筆ではないと思うに至った。書き心地が好みでないならもうしょうがない。(9月28日)
それで一旦万年筆という言葉はノートから消えるのだが、10月の2週目ぐらいからまた意識が戻ってきたようである。
万年筆が猛烈に欲しくなる瞬間と、冷静に考えてやっぱりいらない、となる瞬間と、波は交互に押し寄せている。そしてそのどちらも高くて強い。昼間は猛烈に欲しくて、でも夜になるとやっぱりいらない。このノートに書くペンがJuice upの0.3となっていて、私はJuice up0.3を中心に回っている。あのゆるやかな幻滅*6がそこにあったらどうしよう。書くものを変えるということは、それほどまでに恐ろしいものだと思う。(10月13日)
結局この3日後、午後休を取っていた日に伊東屋に寄ることと、その時空いていたら店員さんに声をかけて1本購入することを決意する。
明日の午後、空いていたらちょっと伊東屋で見てみようかなという感じ。混んでいたらいい。伊東屋にはMyMightyという万年筆のカスタマイズサービスがあるらしい。ステンレスのペン先なのでお値段1万円前後(パーツによる)。青系がターコイズしかない*7から、あれだったらペリカンのクラシックのほうがいい。ペリカンのクラシックのEFはかなり太いらしい(カクノのMぐらいある)から、あまりに太かったらトラベラーズノート専用にするかデスク置きにすればよい。とにかく見てみないとわからない。結局、一度気になりだしたら買ってみて試してみないと気がすまない。自分でも呆れてしまう。でも、ここ数ヶ月のモヤモヤを、これで飛ばせるのならそれでいい。色、太さ、書きやすさ、インクの乾き、そのすべてにおいて、私の生活にあうのかどうか。(10月16日)
そして翌日、平日午後の伊東屋は空いていて、ここにある通りペリカンのクラシックのEFを購入することになる。しかしこのノートにどうしてペリカンのクラシックに絞り込んだかということが一切書かれていないのが意外だった。
それから丸3年が経った。持っているペンは15本を超えた。万年筆を握らない日はない。懸念されていた旅先にすら厳選した何本かを持っていっている。